でぶぅの日記

思ったことを思ったままに

村上春樹「カンガルー通信」

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村上春樹を読書会で読むという挑戦

熱狂的なファンの多い村上春樹

たった1編の小説で、ノーベル文学賞に何度もノミネートされる作家の

良さがわかるのか?いや、わかるわけないけど、何を感じるのか素直に話してみる。

(2018年9月11日19時〜第4回分福読書会)

 

初期の短編集「中国行きのスロウ・ボート」(1986)より

「カンガルー通信」(1981)は村上春樹32歳の作品。

ストーリー

26歳のデパート商品管理課に勤める男性が主人公。本人は否定しているがおそらく童貞。彼が働くデパートで購入したレコードが自分の思っていた物と違ったとして、交換して欲しいと商品管理課に手紙を送ってきた女性がいた。その女性に対して業務ではなく、個人的に返事を返すというもの。しかも、手紙ではなく録音されたカセットテープで。送られてきた文面の句読点を数えてみたり、カセットテープはその女性の家の玄関先で録音されていたり。

村上春樹は何を描きたかったのか?

 

初恋の頃

ここに出てくる男性は、初恋の頃を思い出させます。

小学生や中学生の頃、好きな女の子ができる。

その子のことが、好きで好きで仕方なくなる。じっと見ていたい。

その子の使う物、触った物にまで愛着を感じる。(リコーダー事件の発生原因)

 

でも、次のアクションがわからない。

世の中には、男女のカップルがいる。

つまり、この思いを相手に伝え、カップルになる。

たぶん、その後、結婚する。

 

途中のことはわからない。でも、好きだということを伝えなきゃ。

好きだ!と言われてもよくわからないだろうな〜。

僕が君のことを好きだということは、つまり・・・・・

たまたま偶然、同じクラスになった。たまたま偶然、隣の席になった。

たまたま偶然、同じ歌が好きだった。たまたま偶然・・・・・。

そう、君を好きになったのは、たまたま偶然。不確実で不完全。

でもね、よく考えれば、世の中って不確実で、不完全。この地球と一緒なんだ。

 

僕だって君を好きなのかどうかなんてわからない。

どうしてなんて説明つくはずがない。100パーセントなんてことはこの世にはない。

ただこの思いが今、ここにあるだけ。

 

「好き」という言葉は誰かが作った言葉。

僕が君を思う言葉は「好き」ではないかもしれない。

でも1番近い言葉を探すなら「好き」だとしよう。

 

君は僕に言う。女の子と付き合ったことないの?

もちろんない。だけど、僕はこう言う。

女性とは神秘的なものだ。そしてとても醜いケダモノだと。

 

ピュアであることの醜さ

なんて気持ち悪い男の子なんでしょうね。

でもなんてピュアなんでしょうか。全てにおいて正直。

自分の思いにすら正直。嘘をついていないからこそ理解されない。

真理のようなものを追いかけつつ、目の前の現実との調和が取れない。

登場人物の26歳男性は、

ピュアであるが故に気持ち悪く、女性から遠ざけられていく。

 

32歳前後の村上春樹が、このピュアな心を表現しようとしたのだろうか

歳を重ねればこの頃のことを忘れてしまう、若ければ上手く整理ができない。

もうすっかり忘れていたピュアな心、気持ち悪さを思い出した。

 

これは表現なのか・表出なのか

そして、これは表出なのか、表現なのかと言う話にもなった。

ありのままを書いた「表出」であればチープで凹凸の少ない味気ないものになりがち。

また、「表現」だとすればピュアであるがゆえの気持ち悪さ、ダサさがリアルだ。

つまり、どちらとも言い難い。

「事実は小説より奇なり」ではなく、「村上春樹は小説なのに奇なり」

ここにカンガルー通信の面白さを感じたのでした。